2017年12月10日日曜日

オリエンテーリングとOMMの関係性

この記事は2017年アドベントカレンダー「今年もオリエンテーリングを語ろう(裏版)」の1つの記事として書いています。

まず、自己紹介します。私は福西佑紀といいまして、2011年に椛の湖インカレで大学オリエンテーリング現役を卒業した後、春インカレを3年連続運営しました。全国同期には昨年までのインカレ実行委員長経験者も多くいます。

私はその一方で2013年からTEAM阿闍梨という団体に所属し、ナビゲーションスポーツの普及活動に関わっています。私を多少なり知っている人は、私のことを運営寄りの人と思っているかもしれません。その認識は実態としてあまり間違っていないですが、ロングディスタンスのM21Aをそれなりの順位で走れるくらいには体力はずっと維持していきたいですね。


さて、近年のTEAM阿闍梨が最も強く関わっているイベントとして、OMM JAPAN(※OMM: Original Mountain Marathon)があります。自分も4年連続で運営スタッフとして携わっています。昨日公開された宮西さんの記事でも参加者視点で触れられていました。
このアドベントカレンダー記事ではこの機会に、今年は過去最多の約1,300人の参加者を集めたこのイベントをオリエンテーリングの視点から俯瞰してみたいと思います。オリエンテーリングに足りないような良いところは取り入れて活用しよう、という感じで。



OMM JAPANとは

OMMの発祥は1968年のイギリスであり、今年は第50回大会のThe OMM(発祥国イギリスでの大会をThe OMMといい、その他各国での大会をOMM Franceなど国名を付けていう)が開かれました。元はといえば悪天候に耐えうるウェア・ギアの販売を促進するために開始されたようです。売り物の需要を自分で作る、素晴らしい戦略です。

日本ではその製品とともにレースコンセプトをノマディクスという会社が輸入して2014年に第1回大会があり、今年までに毎年11月に4回開かれているイベントです。第2回以降11月第2週の週末に開催日が固定されている(はず)なのでオリエンテーリング大会としてはインカレロング・スプリントと被ることも多いですね。

第1回の開催以降トレラン系雑誌でもよく取り上げられ、毎年10名以上のオリエンティアも参加しているのでイベント内容を知っている人も多いでしょうが、簡単に言うと、1/25,000程度の地形図のような地図にオリエンテーリングのようにコントロールが書いてあり、ポイントOやスコアOのようにタイムや点数を2日間合計で競い、その間の夜は指定された場所で野営し、その間に必要な荷物は全て携帯するというイベントです。計測にはペア1名の手首にバンドで取り付けられたSIを用います。これ以上の説明は公式サイトやインターネット上にたくさんある参加レポートなどを見てください。
イベントの競技面全体と計測、安全を支えているのはオリエンテーリング関係者が中心です。


OMMとオリエンテーリングの比較

OMM(イベント)とオリエンテーリングの主な違いをまとめてみます。

1.ペアと個人

OMMはペアでの出場のみに制限されています。山の総合力を試すという触れ込み上、山の中で危険な状態(極度の疲労、脱水、捻挫、滑落、野生動物との遭遇など)になるリスクが小さくないので、その場合でも一定の安全性を確保するために2人での行動が義務付けられているのでしょう。

一方、オリエンテーリングは競技なので1人が基本ですね。ただ、地図読みスキルの低い人が1人で山に放り込まれるのはとても不安だと思います。それがオリエンテーリングをやってみたいと思ってみた人の障壁になっている気がします。知り合いにオリエンティアがいるという人は稀少でしょう。
そのような「ちょっと興味を持ってみた」人が参加しやすいような、ペアオリエンテーリングというクラスも作ってはどうでしょうか?イベントによってはグループクラスもあるにはありますが、ちょっと興味を持った初心者がそのクラスを容易に見つけられるとは思えないですよね。。

2.年1回と月1回

OMM JAPANは年に1回しか開かれません(LITE/BIKEは除く)。準備の負担も理由にはあるでしょうが、結果的に希少性を高めることにもなっていますね。春夏のLITE/BIKE(自転車でも出られる)と比較して、(実際には誰でも出られるのですが、)OMM JAPANが本戦と呼ばれることもあります。年1回しかないからこそ少々遠方でも参加者が集まるという面があり、またアウトドア界隈としては人が集まる→OMMに出る人に会うために出る→人が集まる、という好循環もあるように見えます。

オリエンテーリングは毎週各地で大会が開かれていますね。気軽に行ける範囲で行われる大会は少ないかもしれませんが、年1回に比べれば多いでしょう。オリエンテーリング大会は比較対象が多いので、集客に苦戦することもあるかもしれません。ただ、コンセプトのある大会は人も集まりやすいですよね。他の大会と比較した魅力の創出は大事です。

3.2日間と1時間

OMMは2日間の大会です。ストレートクラスは2日間のタイムの合計、スコアクラスは得点の合計で順位が決まります。その競技時間はロング・ショートなど細かなクラス分けによって異なりますが大体1日5時間~7時間くらいです。オリエンテーリングのレースが基本的には1日ごとの開催で、フォレストなら1時間前後のタイムで終わるとのは対照的です。

オリエンテーリングは慣れた人なら高い速度で走り続けられるので1時間程度でも十分な運動になりますが、初心者は迷って止まりがちですよね。その一方で、1日の時間の使い方を考えた時に、1時間程度で終わってしまうオリエンテーリングのために1日の昼間の大半を費やしてしまうのは何だか非効率な気がする、というのは誰しも1度は感じたことがあるでしょう。会場で知り合いとレース前後で地図談義ができればいいですが、そういう人がいなければムダな時間を過ごしてしまっていると感じてしまうこともあります。1日を過ごすに見合う魅力のあるイベントか、というのはその他アクティビティと比較する時に必要な観点でしょう。

オリエンテーリングのレースを1本走った後、自由に山に戻って復習できるような自由度があると満足度が高くなることも多いと思います。オリエンテーリング特有の公平性、厳格さを求めると許容しにくいかもしれませんが。。

4.縮尺と植生、地図

オリエンテーリングの地図が独自のものであることは皆様ご存知の通りです。OMMは、数値地図をベースに私有地の着色など調整して作製されていますが、基本的には一般的な地形図に似ています。
初心者が初めてオリエンテーリング地図を持つとその正確な表現に驚くことがほとんどで、逆にオリエンティアが地形図でナビゲーションをするとその曖昧さに悩む人が多いです。どちらも縮尺に応じた見やすさを追求して総描された結果であり、両者を特徴づけていると思います。

5.楽しみ方の多様性

オリエンテーリングは基本的に個人のタイムレースであり、結果はほぼタイムでしか出てきません。コース距離に対する時間も(トレラン以上に)一定ではないので、もちろん順位以外の楽しみ方も人それぞれにありますが、順位を競うのが基本です。

OMMではタイムや得点以外にも長時間のレースのマネジメントがあったり、他の参加者とのふれあいがあったり(長時間レースなので皆余裕を持って走っているため可能)して、また常にペアとの行動なので気軽に会話もできます。さらに、1日目と2日目の間の野営の時間(さらに言えば宴会)が楽しみで参加している人もかなりいます。

初心者が楽しめるか、というのはどんなアクティビティでも裾野の拡大には重要な要素でしょう。始めるのに機材が必要だったり、準備が必要だったりすると気軽に参加することは難しいです。OMMはそのレースの特性から必携装備品が多く定められており、参加が難しいと思うかもしれません。ただ、どれも山で快適に過ごすのであれば当たり前に必要なものばかりであり、広く山を楽しむためと捉えれば揃えるのは難しくないでしょう。OMMの開催地は毎年異なるため、その場所の気候やフィールド特性に応じて装備を調整するのも参加者の楽しみの1つになっています。

タイムや得点を追わなくてもその時間と空間を楽しめる空気がある、というのはオリエンテーリングにはない大きな魅力ですし、実際、順位を追い求めているチームは限られた人だと思っています。完走目標のチームも多いです。気質の違いがありますね。



オリエンテーリング普及の視点

地図読みスキルを必要とするアクティビティーにはオリエンテーリングだけではなくロゲイニングやアドベンチャーレース、それこそ街歩きや古地図散歩も該当するでしょう。その中でオリエンテーリングは地図の曖昧さを極力排してタイムレースの競技として成立するようにした、極限のスポーツなわけで、地図読みヒエラルキーの頂点にあります。

頂点にある競技の普及のためにはその裾野を広げるのが必要なのは当然であり、オリエンテーリングの中だけで人を集めようとしても難しいのは事実です。オリエンテーリングの愛好者を増やすためには隣接領域から徐々に興味を持つ人を増やしていくのが妥当であり、隣接領域の普及のために労力を使うのは一定の妥当性があると判断して良いでしょう。オリエンテーリングの隣接アクティビティの1つがOMMであり、オリエンティアが良い順位を獲得してプレゼンスを高めることは、オリエンテーリングへの興味関心を広めることに役立ちます。そこからいかにオリエンテーリングイベントへの参加につなげるかが重要ですね。

OMMでは地図読みが必須スキルであるため、地図読みスキルを向上させたいと思う人は一定数いると思いますが、向上させたいと思う度合いは人それぞれで、そのためにわざわざオリエンテーリングの大会にまで出ようと思う人は少数派でしょう。普通なら巷の書店にたくさん販売されている地図読みに関する書籍や雑誌を読んだり、自分より地図読みができる知り合いに聞いてみるでしょう。

マーケティング理論は詳しくないですが、少し調べた限りでは人々が何かのファンになるまでには
 認知 → 関心 → 検索・調査 → 比較検討 → 購入・参加 → 情報共有
というプロセスを辿るらしく、この全てのプロセスにきちんとアプローチすることが大事です。
 認知   :オリエンテーリングとは地図を持って走る競技だということを情報に触れてもらう
 関心   :オリエンテーリングを(スポーツ・イベントとして)楽しそうと思ってもらう
 検索・調査:調査すれば見つかるだけの情報を提供する
 比較検討 :参加したいと思うだけの(外面的な)魅力をアピールする
 購入・参加:エントリー、参加しやすい環境を作る
 情報共有 :参加した人が周りの人に広めたくなるような体験をさせてあげる

オリエンテーリングが特性として弱いのは比較検討から参加に至るまでの、外面的な魅力をアピールする部分ですね。一般の人には魅力が伝わりづらい。この観点では、@hamauzuさんが最近広めているようなよくできたオリエンテーリング動画を一般向けにも広く活用するのが近道だと思います。

OMMはブランドイメージ作りも大事にしていますし(例:Facebookページ)、参加した人が感想をSNSで広く共有することが自然発生的に行われているので上手く行っていると感じています。


OMMで上位に入るには

やや視点を変えてオリエンティアがOMMに参加しようと思った場合に気になる事項ですが、マウンテンマラソンというだけに、地図読み能力だけではなく走力も重要です。特に2017年大会は走力重視の志向が強いと言われました。また、1人8kg程度の荷物を背負った上で長時間のランになるので、空身で短時間走ることに慣れているオリエンティアにとっては厳しい運動になります。体力面を鍛えるためには、5時間のロゲイニングで大体走れていれば大丈夫でしょう。ただ、入賞するにはそれなりの体力(走力+持久力)が求められます。ストレートの上位クラスならなおさらです。

地図読みの面ではオリエンティアならほぼ問題ないレベルの位置にしかコントロールは置かれないので安心ですが、地図には植生が描かれていないので通りやすいところ、そうでないところを地図から想像する能力が必要になります。慣れればある程度想像がつくようになりますが、小縮尺の地図の曖昧さをストレスに感じるオリエンティアは多いので注意が必要でしょう。


関連イベント

TEAM阿闍梨では、地図読みに興味を持った人のためのオリエンテーリングイベントを開いています。2016年1月に開催されてエリートクラスの完走者が2名(小泉さん・村越さん)しかおらず伝説になった(と勝手に思っている)OMO(奥武蔵マウンテンオリエンテーリング)というイベント。2018年3月にも第3回の開催を予定しています。これまで2回開催していて第2回もエリートクラスの完走は4名しかいないのですが、レギュラークラス含めてOMMのようなナビゲーションの機会を提供するイベントとして人気になっています。

また、東大OLK大会や茶の里いるま大会などではOMMを意識したクラスが昨年から?設けられていますね。同様の参加者層で人気だと思います。オリエンテーリング大会でただコントロール位置が易しめで距離が長めのクラスを作るだけだと広報力、アピール力に欠けるのでいかにオリエンテーリングに不慣れな参加者が楽しく過ごせると思えるような場を作るかがポイントでしょうかね。


まとめ

まとめるほどのことはないですが、OMM JAPANにはオリエンテーリングにない魅力があるからこそ多くの参加者を集めていることは確かだと思います。
オリエンテーリングと同じナビゲーションスキルを用いたイベントとして排他的に思う必要は全くなく、オリエンテーリングをする人はロゲイニングイベントにも地図好きの会合にも何度か参加してみてオリエンテーリングの楽しさを見つめ直してみるのはいかがでしょうか?



2017年9月14日木曜日

完結編。 白山ジオトレイル7日目

穏やかな朝だった。最長ステージを越えて最終日を迎え、完走を視界に捉えた安堵感が選手の間に見られる。スタッフも最終日を名残惜しむように明るく楽しく準備しているよう
に見受けられた。


最終日のコースは前半こそサイクリングロードを7kmほど進むため楽に見えるが、その途中には崖下を望める明神壁があったり、その後にはトレイルを6kmほど進む、全体で約20kmのコースである。
1週間持ち運んできた食料だけでの生活もおさらばだ、ということを思いつつ最後の朝食をとる。それぞれの食べ物は美味しいのだが、7日間似たようなものが続くのはやはり少し辛くなった。
スタート時から比べるととても小さくなったザックをどうにか薄く、体の重心に近くして走りやすくなるようにパッキングし、スタートへの準備を整える。朝から濡れたウェアを着る生活も今日で最後である。清潔な生活を待ち遠しく思うとともに、いかにこの1週間単純で純粋な生活を送ってきたんだろうという感慨を覚えた。スマホはあるもののあまり見ず、現実から離れてレースのみに集中した夏休みであった。
スタートしてからは例によって1日1日ベストを尽くしている若岡さんが全力で飛び出し、キロ5分くらいじゃないかというスピード感でどんどん離れていった。自分はというと、今日は選手と一緒に出走したコースディレクター相羽さんの背中を見ながら選手の中では2番手で走る。相羽さんが何やら無線で会話しながら走っているのは大変だろうと思いながら追いかけていた。
明神壁の入り口で水本さんに、頂上でハチに刺された人が出たためCPがその下の分岐に変更されていることを知らされる。それはそれはと登っていくと、痛がりながら下りていくカメラマン田上さんとすれ違った。CPから折り返して全選手とすれ違い、下ではハチ刺されの治療をしているであろう車を横目に見つつ、サイクリングロードへ。退会として医療スタッフが万全なので安心してレースをできているのである。


平らなサイクリングロード途中のCP2およびその手前では満美さんの熱烈誘導応援、スタッフの応援を受け、トレイルへ突入。急な登りが何カ所かあり、昨日終盤と同じく巡視路のため鉄塔下の通過も続くが、脚に力を入れて登っていくと長くともそこまで辛いものではなかった。
トレイル最終盤はゆるやかな下りトレイルが続き、白山の山を離れるのを惜しむに相応しい道だった。下りてからはCP3で神社に参拝し、CP4で最後の木札をもらい、フィニッシュへ。最後に迷わないように、という配慮で道の分岐にはことごとく人が立っていたが、最後まで地図を見ながら走り続けた自分にとっては不要だった。もっと地図読み要素が増えれば自分が優勝できたかもしれない、などと考えるが、誘導スタッフに応援されるのも悪くないし、迷う人は本当にどこかへ行ってしまうので大会としては選手の満足度を高めるためにも最低限の誘導は必須だろう。
フィニッシュまで残り1kmもないCP4で冷たい水を柄杓一杯頭からかぶってリフレッシュして、ついにたどり着いた7日間のフィニッシュ。自分は感情を味わうためにゆっくりと歩いてフィニッシュした。



白山比め神社の駐車場で久しぶりに対面した、初日に預けたスーツケース。風呂へ向かうバスの出発まで時間があるので休憩もそこそこに、1kmほど離れたスーパーまで歩いて往復。往路では我慢できずに自販機で冷たいミルクティー缶を飲み干す。注目の、レース直後にスーパーで買ったものは、飲むヨーグルト(密度のある冷たい飲み物)、魚肉ソーセージ(味気のあって食べやすいタンパク質)、プリン2個(好物カスタードクリーム)、リンゴジュース(身体が求めるフルーツ感)であった。ゴール地点に戻るまで我慢できるわけはなく、魚肉ソーセージ2本と飲むヨーグルトは歩きながら消費。CP4手前で満美さんが選手を応援していたので横で話しつつ食べつつ応援する。皆疲れているが良い表情である。


こうして、自分の初めての白山ジオトレイルは幕を閉じた。
総括するのは何となく憚られるので差し控えるが、選手とスタッフが共に走る、温かいイベントであった。この場合の走るというのは、同じ目標に向かって支え合って進む、という意味合いに近い。
レースではあるものの、タイムを競うのは主眼ではなく、メインテーマは選手が白山周辺の山々の周遊にチャレンジする一週間の生活を皆で楽しむことだと感じた。
ジオファミリーに加わった一員として、来年白山ジオトレイルというイベントをファミリーと一緒に楽しむのであれば、スタッフとして関わる意向である。



長々とお読みいただき、ありがとうございました。

2017年9月11日月曜日

恐怖と疲れと意識の変化。 白山ジオトレイル6日目

朝は皆が準備している間もできるだけ寝る。ただ5時過ぎには起き出した。雨の降る中スタート地点へ移動する選手を見送り、自分の準備をする。そのうち自分の荷物の置かれているテントを除いて片付けられ、スタッフによるキャンプ場の片付けがだんだん進んでいく。キャンプ場は屋根のあるピロティ状のゲートボール場だったので、レイトスタートの選手はテントの外に荷物を出して準備していた。自分もとりあえずテントの外に荷物を出して、スタッフと談笑しつつゆっくりと準備を整える。降り続く雨は朝の間は止まなさそうだった。


選手3人でスタート地点へ移動し、やはり雨の中スタート。すぐにそれぞれのペースで走り出す。自分は真ん中で、車道を走っている間に前も後ろも見えなくなって単独走の時間となった。
雨が強く降り続き、まるで服を着たままシャワーを浴びているような時間もあったが、動き続けている間は体温を維持できて大丈夫という感じ。登りはストックをフルに使って軽快に歩く。先は長いので無理しない。
じきに第1CPに着き、大雨警報が出ていることを知らされながらも激励を受けて通過する。大雨の中、小さなテント屋根の下に集まるスタッフも大変である。

いつ先行者の最後尾に追い付くだろうか、速度比が2倍だったら2時間で、1.8倍だったら2時間半、公式は…、数式変形すると…、その時のおおよその距離は…などと考えながら引き続きアスファルト道を登り、登りきったら今度は長い未舗装道路下り。下りていくと、斜面から水が溢れ出てきていて、靴が完全に水没するような箇所も多々通過した。
ほぼ下りきってついに最後尾とスイーパーに追いついた辺りでは、5~10cm大の石が水と一緒に流れてくるような濁流が5mほどの幅で林道を横切っていてそこを渡らなければならないような場所も1カ所と言わず3カ所ほどもあった。さすがにそこでは足が流れに持って行かれて川に落ちて流されるか石が足首に衝突して怪我するという恐怖を感じ、慎重に慎重を重ねて、滑らないように最大限の注意を払って進んだ。ストックがあることで、濁流の下で見えない地面の足場を確かめることができて良かった。自分は体力があるからまだ良いが、疲れてゆっくりしか動けない選手には酷く辛い状況だろうと感じられた。
ただ、予報通り昼が近づくにつれて雨は弱まり、止んだ。林道を抜け、車道に出たときには安堵した。そこから先ではトンネルをいくつか抜けるため後尾フラッシュライトの点検あり。スタート時にザックに取り付けておいたのが大雨で外れていなくて良かった。

滑りやすいトンネルの端を歩いて抜け、橋を渡るとCP2に到着。さあここからの区間、どんどん追いつき追い抜くぞ、と思っていたら土砂災害警報発令によるレース中断をスタッフに知らされる。そうか、ちらっと見えた、CP横の集会所で休んでいた選手は休憩じゃなく送迎待ちだったのか、とすぐに気づいた。自分もその仲間に入って迎えを待つ。乗せられたスタッフの車で今日のフィニッシュ地点予定だったバードハミング鳥越までしばらく走って送られる。着くと、ちょっとした建物の中で、前を走っていたであろう選手たちがみんな休んでいた。低体温か、エマージェンシィシートに巻かれている人もいた。
相羽さんと赤坂さんが急いでレース再開後新コースの検討をしている間、お湯が準備されていたのでクラムチャウダーと補給食を食べる。寒くはなく、備えをできるだけ万全にする。新コースのテープ巻きをしてきたらしい高坂さんと愛馬さんが最終的な相談をしてコースが決定された。元々予定されていたコース終盤の電力鉄塔巡視路区間はそのままに、その区間の開始地点までロードをひたすら走る25kmほどのコース。準備ができた人から順次スタート。というブリーフィングもそこそこにレース再開。

どんどんスタートしていった前の選手を追い抜きつつCPへ。後ろには久保田さんがいて、自分のペースが遅いのか、差が開かなかった。

そのうち、自分よりだいぶ遅くスタートしたであろう若岡さんに昨日と同じように颯爽と追い抜かれる。気にせず、というか気にしてもしょうがないのできちんと道の分岐を確認してようやくトレイルの入り口に到着。水本さんの激励を受ける。
トレイルの足場は良くなく、ストックを使ってゆっくり進む。疲れから、登りで全くスピードが上がっていなかった。久保田さんに道を譲って先に行ってもらった。巡視路は尾根上に登るまでが急で、登ってしまえばそれほど辛くないという事前情報だったが、その最初の登りで限界に近づいていっていた。
しかしその際、登り疲れて立ったまま休憩しているとき、「もうレースは残り少ないのに、こんなに(慣れない)ストックに頼る必要はあるんだろうか」という考えが頭をもたげた。その答えは否で、レースなんだから最後までベストを尽くすということを考えるともうストックに頼って脚を残す必要はなかった。今残しても、どこに向けて残していくのか、いつ使うのか分からない。
ということで、それまで脚6:4腕という意識割合だったものを、それ以降8:2くらいにして脚に力を入れて進むことにした。進んでみると、当然脚に疲れはあるものの、これまでよりは軽く登れるようになった。いかに腕よりも脚の筋肉の方が強いか、ということを実感した瞬間である。
じきに久保田さんを抜き返して定位置の2番手になり、1つめの山塊を越えて一度通ったCPに戻ってきた。改めて水分とカロリーを補給して、ラストの区間へ。

鉄塔の下を何度としれない回数通過することから人によっては鉄塔地獄とも呼ばれる区間だが、自分はどこに鉄塔があるかを地図から予測し、次の鉄塔、次の鉄塔と近い目標に定めつつ進んでいたので全く苦にならなかった。また、時折変化するトレイルの方向、登り下りの程度から現在位置はほぼ分かっていたので力の加減は存分にできた。走れるところではできるだけ走った。走れた。
山を抜けて車道へ向けて降りるところでカメラマンと鉢合わせした。どうやらカメラマンは自分が走っているところをずっと追って撮影しているようだ。映像に残るということでときどき「もう少しだー」「下りてきたー」などと独り言を言いつつ、遂にバードハミングまでつながる車道に降り立った。明るいうちに下りてこられた。そこからフィニッシュまでジョグ。実際のところ歩きたかったが、撮影されているので走らざるを得ず、ずっと頑張って走り続けた(でも撮影されてないところで水分補給するときは歩いてた)。最後は1日目にも辿った風景を改めて辿って、6日目フィニッシュ!達成感のあるレースだった。

その後風呂にも入り、差し入れも含めて食事をして、更けた夜にフィニッシュする選手をゴール地点でできるだけ迎えた。ジオのドラマを感じたかったから。
自分はゴール地点での状況や表情しか見られなかったが、後に聞く限り山の中ではスイーパー・林道待機スタッフなども含めて完走を目指すドラマがあったようである。それをゴール地点での選手の歓喜の振る舞いから僅かでも感じられたのは良かったと感じている。
自分はフィニッシュ閉鎖時刻22時には力尽き、24時を過ぎてフィニッシュした最終ランナーを見ることなくジオ期間中最後の床についた。深夜に打ちつけた雨風の音は激しく、スマホを見ると竜巻注意情報も出ていて、図太い自分でも1時間ほど怯えて寝られない夜だった。

2017年9月7日木曜日

若岡さんへの意識。 白山ジオトレイル5日目

今日は、朝6:30までに各自で白山最高峰である御前峰に登頂して室堂まで戻ってくることになっている(標高差約250m、通常往復1時間程度)。晴れていれば御来光が拝めるので日の出前に登る意欲100%だが予報では晴れる確率0%なので、自分はできれば遅く出発しようと思っていた。
その一方で早く出発する人はどんどん出発していき、次第に小屋から人が減っていって、時間に余裕があることは頭では分かっていても心細くなってきた。結局予定より10分以上早く、スタッフのほかには若岡さんのみを小屋に残して室堂を出発。

寒さ対策ウェアギアをフル装備来て出て行ったが、朝なのに昨日の風雨時よりはいくぶん暖かかった。そして空は灰色で見えないが明るくなり始めている。奥宮神社で写真を撮ったりしながら少し登ったところで暑くなってきて手袋やネックウォーマーを外して冷気導入。そうしているうちに後ろから若岡さんもやってきた。若岡さんも少し暑そうにしていた。
自分は脚を労ってゆっくり登って、登頂から下山してくる選手たくさんとすれ違ったが、最後まで若岡さんには追いつかれず、僕が山頂で見事にガスガスの写真を撮ったりしている間に下っていったようだった。


6:05には室堂へ戻ってきた。時間があるので辺りを少しだけ見物すると、広く快適な拠点であることを実感した。晴れた日にまたゆっくり訪れたい。
全員で記念写真を撮り、約6kmの距離がある別山へ昨日と同じグループで出発。雨によるスリップを懸念し、辿るルートは予定より1カ所変更されていた。運営側による、環境への影響も含めた配慮である。脚調子は、面倒・節約のため昨日から貼りっぱなしのテーピングの効果もあってか、また少し快復してきたか、特に大きな問題ではなかった。
所々にある泥濘の道はできるだけストックで回避。木道ではストックを衝かない。そんな場所も含めてほぼシングルトラック続き。登りはそこそこ。切り立った大屏風の尾根は美しかった。
たどり着いた別山では、相変わらず天気が悪かったが、「着いちゃったか、これであとは下るだけか」という感想。後ろの第2班とそれほど離れておらず、下山路分岐までの間にすれ違った。ハイタッチを交わす。

下山路はひたすら下り。何度かストックや脚を滑らせて転ける。しかしケガには至らず良かった。下るほどに天気は回復傾向かつ気温は上がり、避難小屋に着いても標高は1900mほどあったが、レースウェアにウィンブレを羽織るくらいで大丈夫だった。
地元でも人気スポットらしい、霧がかった幻想的なブナ林を抜けつつまだまだ下る。次第に空は晴れ、暑くなってきた。曇雨天下での行動時間が長かったおかげで、久々に青空を見た気分であった。



林道まで出てまた少し歩くと、タイム非計測区間の終了地点、市ノ瀬に到着してスタッフの歓迎が待っていた。そこでは山の中でさんざん湿った衣類を道路に広げて乾かすことを試みる人が、若岡さんを皮切りに続出。自分も整理がてらやってみたら、少し乾いた。



身体には水分もしっかり補給して、10km少々のロードコースへ順次スタートする仕組み。久保田さんを先頭に、チャイニーズペア、志村さんを見送って自分がスタート。早々に3名は抜いて、久保田さんを追いかけることをモチベーションに走る。しばらく見えず、辛いのは辛いが1時間ほどで終わると考えつつ走る。カメラマン田上さんに車で追い抜かれつつ何度か撮られる。久保田さんに追いつく前に、自分より後のいつスタートしたか分からない若岡さんが知らぬ間に後ろから軽快に追いついてきた。抵抗する間もなく圧倒的なスピード差で簡単に抜かれつつ、「ファイトで~す」と声をかけられる。離されて見えなくなるまでも早かった。
それでも前を追うモチベーションは途切れず、7-8kmあたりでペースダウンした久保田さんを捉えてハイタッチを交わしつつ若岡さんによる抜かれ方に共感しつつ追い抜く。後はゴールまでの距離を地図で確認しつつ最後までペースを維持して林西寺へフィニッシュ。先にフィニッシュした若岡さんはコースを逆走していってしまった。後で確認すると、若岡さんとは2割ほどのタイム差があった。

自分は休憩を優先させたくて、しばらく休んだ後テント場に移動。洗濯と食事を済ませ、風呂に入って歴史的町並みの残る白峰の街を少しだけ散策してまた休む。明日、最長第5ステージの地図が配られており、緊張していたかもしれない。

例年第5ステージでは速い人がそれ以外の人より後にスタートする。ナイトステージを速い人にも体験して欲しいのだろう。レイトスタートの人がどこで先行選手を追い抜くか、というのもスタッフの興味になっているらしい。ブリーフィングでは後半スタートの対象者が発表され、自分と若岡さんと橋本さん(砂漠マラソンやグランドキャニオンでのレースに参加し、ジオには練習・トレーニングとして参加した60代)の3名だけだった。速い選手と大会から認められたようで、気持ちが引き締まった。望むところである。一般6時に対し、2時間遅れの8時スタートとのこと。
そこかしこでは最大の山場に備えて作戦会議する姿も見られた。